2014年9月9日火曜日

ミュージアムをハックせよ!


 











 「ミュージアム嫌いのためのミューアムガイド」というちょっと目を引くミュージアムガイド会社をみつけました。その名はMuseum Hack。NYを拠点にしており、メトロポリタン美術館とアメリカ自然史博物館でオーダーメイドのガイドツアーを独自に行なっています。 

 私が初めてMuseum Hackの名前を目にしたのは、結婚直前の女子会ツアーについて書かれていたネットの記事です。(こういったイベントはアメリカではbachelorette party、イギリスではhen partyと呼ばれます)。ワイナリーやクルージングなどでパーティをするのが一般的らしいのですが、Museum Hackは、ミュージアムでのパーティを提案しています。主人公である結婚直前の女性とその友人たちがドレスアップして美術館に集まり、Museum Hackのスタッフによる解説を聞きます。女子だけのパーティということで気を利かせて「ちょいエロ」な作品を紹介しています。美術館で一番ナイスなおシリの彫刻とか、そんなものがチョイスされていて女子たちは大盛り上がりするそうです。作品の前での自撮りタイムがあったりと、よくあるパーティとは違って好評だそうです。これだけではなく、家族向け、企業のVIPツアーなどを企画しています。基本的にはミュージアムにあまりなじみのない人に楽しい体験を提供するというのが彼らのミッションです。

 Museum Hackは設立からまだ一年の美術館、博物館側と提携していない独立したミュージアムガイド会社です。個人のニーズに合わせた少人数のツアーを行なっているのが特徴です。会社を設立したのはニック・グレイ氏。友人の誕生日にメトロポリタン美術館のガイドツアーをプレゼントしたところ、口コミでツアーの申し込みがあったことがきっかけでこのビジネスを始めました。

 通常、美術館、博物館は学芸員や館のボランティアが解説ツアーを行なったりイベントを開催したりしています。ワークショップなどは外部に委託したり協働したりすることは聞いたことがあります。しかしMuseum Hackのような独立した営利企業がガイドツアーを行なうのは可能なのか?私が気になった点はここです。口コミで始まった会社が大規模なミュージアムで顧客を獲得できるのかも知りたいと思いました。また、サイトやYoutubeで紹介しているツアーを見ると、かなりカジュアルでノリノリな雰囲気に驚かされます。「ミュージアム嫌い」を呼び込むにはキャッチーですが、正統派を好む人は学芸員の解説に信頼を置くのではないかとも思います。

 いったいMuseum Hackとはなにものか?設立者のグレイ氏にメールで質問したところ、以下のようなお返事をいただきましたので紹介しつつ、このビジネスの可能性について考えてみたいと思います。

ー Museum Hackのようなビジネスは日本ではあまり聞いたことがなかったのでとても興味を持ちました。まず、数ある魅力的なミュージアムの中でメトロポリタン美術館とアメリカ自然史博物館を選んだ理由を教えてください。

グレイ氏:Met(メトロポリタン美術館)とアメリカ自然史博物館は、規模、来館者数ともにNYで一番大きなミュージアムですので、来館者は圧倒されてどう鑑賞してよいか分からなくなってしまいます。こういった大規模なミュージアムにこそMuseum Hackのようなプライベートなツアーがふさわしいと考ました。

ー この二つ以外にもツアーを行なう予定は?

グレイ氏:ほかのミュージアムにも新しい企画を持ち込んでみたいと思っています。トレーニングプログラムやワークショップにMuseum Hackを利用してくれているミュージアムも多くありますが、新しい場所でツアー参加者を得るのはなかなか難しいです。ツアーを増やすとなると新規スタッフの採用、ミュージアムの選定などが必要です。収蔵品について学ばなければなりませんし、マーケティングにも時間を取られます。それから来館者数が多く見込めるような大規模な都市を選ぶ必要もあります。例えば東京や京都、ロンドン、パリなどがあげられますが、今の時点では事業を広げる予定はありません。

ー 『ミュージアム嫌いのためのミュージアムガイド』とのことですが、宣伝はどのように行なっていますか?

グレイ氏:ほとんどがSNSか口コミですね。

ー ミュージアムに手数料やマージンを支払う必要はないのですか?

グレイ氏:Metにツアー客分の入館料を支払っています。例えば一人75ドルのツアーであればMetに大人料金20ドルを払います。Metのグループサービス部門との話し合いで決めました。

ー スタッフはどのように採用していますか?ガイドにはどのような方が多いのでしょう?

グレイ氏:スタッフには美術史を専攻した人、ミュージアムエデュケーター、俳優、音楽家、科学の教師など様々なバックグラウンドを持って人たちがいます。この多様性が私たちが自信を持ってアピールできる点だと思っています。採用において一番重要なのは、ストーリーを語る力があること、そして人と親しくなれる資質です。美術史は、人に教えることはできますが、楽しく和んだ雰囲気で学ぶのというのはそれより難しいことです。求人に関しては、一人のポストにだいたい200人の応募があります。

ー スタッフトレーニングについて教えてください。もっとも重視している点は?

グレイ氏:社内のフェイスブックで情報交換を行なったり、実際にツアーした時の知識を共有したりしています。新人は、メトロポリタン美術館と所蔵作品について短い研修を受けることになっています。でも一番いいのは実地で学ぶことなので、実際のツアーで来館者とのやり取りから訓練することが多いです。

ー これぞMuseum Hackの持ち味!といえるものはなんでしょう?

グレイ氏:私たちはミュージアムの職員に最大の敬意を払っていますし、彼らは来館者に素晴らしい鑑賞体験を提供しています。しかしMuseum Hackはもう少しプレミアム感、プライベート感を期待する人たちを対象にしています。ミュージアムが目指すのは、より幅広い、より多くの来館者へのサービスですが、私たちは特別にカスタマイズしたプライベートツアーを行なっています。Museum Hackのツアーは多くても6人までで、ミュージアムの教育部門などほかのツアーに比べてかなり少ないと思います。

ー 公的なミュージアムで独立して営利プログラムをスタートできたわけは?ミュージアムには学芸員やボランティアのツアーもあると思うのですが。

グレイ氏:これはちょっとデリケートな話題ですね!私たちは公共のスペース営利活動を行っているわけですが、これは全て素晴らしいミュージアムと作品があってこそできるものです。他のツアーガイドと同じく、私たちが新しい来館者を呼ぶことでミュージアムに対して貢献していると考えています。

 グレイ氏はその後「参考になるかもしれないと思って」とPBS(アメリカの公共放送)で紹介されたニュースのリンクも送ってくれました。インタビュアーも、私が少し気になったように、「関係のない下世話なネタでアートを語るのはリスペクトが足りないと思う人もいるのでは?」と聞いていました。そこはグレイ氏も慎重に答えていて、決してアートの価値を下げているのではなく楽しい鑑賞体験をしてもらって、もう一度ミュージアムに来てもらうことを大切にすると言っていました。やはり専門的な知識を積み上げ、価値を作り上げてきたミュージアムが行なう教育プログラムとMuseum Hackの間には緊張関係があると感じます。若い人たちにミュージアムへの敷居を下げ、かつ何度も足を運んでくれる人を増やす、という課題にどのように取り組んでいくのか、これからの活動に注目してみたいです。

Bachelorette party@Met「行くわよー!」












「イエーイ!」














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